『上京―史蹟と文化』第50号発行記念 第2弾
      ~上京区文化振興会 副会長出雲路敬直さん、中島源和さんにお聞きする~

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平成28年2月15日発行において『上京―史蹟と文化』(※)はめでたく第50号を迎えることができました。このたび第50号の発行を記念して、上京区文化振興会(※)会長の冷泉貴実子さん、そして出雲路敬直さん、中島源和さんの両副会長にお話しをうかがいました。
(※)『上京―史蹟と文化』や上京区文化振興会については、『上京―史蹟と文化』第50号発行記念 第1弾の記事をご参照ください。

第2弾は、以前、上京区内にあった上京歴史探訪館にて『上京―史蹟と文化』を販売された経験のある天岡昌代(以下、天岡さん)さんのインタビューにより、創刊号から第17号まで執筆された故中島孝廸さんの甥にあたる中島源和(以下、中島さん)さんと、現在に至るまで執筆されている出雲路敬直(以下、出雲路さん)さんにそれぞれの想いを語っていただきました。

天岡さん―『上京―史蹟と文化』の前身にあたる冊子は名前が違ったんですね。
中島さん―『上京乃史蹟』(※)という名前でした。今みたいなカラー刷りの立派な冊子ではなく、モノクロだったけれど、叔父(故中島孝廸さん)は書くのが好きだったし、一生懸命記事を書いていました。
(※)『上京―史蹟と文化』の前身は『上京乃史蹟』(『上京史蹟だより』として昭和51年に開始し途中名称変更)で、平成3年度区民ふれあい事業の開始に伴い、上京区民ふれあい事業の一つであるふれあい文化だよりという位置づけから、年2回の発行と上京区内各戸に配布しています。

出雲路さん―故中島孝廸さんは『上京―史蹟と文化』内の「上京の史蹟」というコーナーを書くのが好き過ぎて、第15号では山本覚馬の記事を8ページも書いてしまい、 他の記事が載らなくなってしまうということがあった(笑)

出雲路さん―故中島孝廸さんは、当時の上京文化振興会の会長も務められており、上京区の伝統工芸に携わる人を『上京―史蹟と文化』で紹介されていました。そのコーナーが冷泉貴実子現会長も注目される「美を創る」です。

出雲路さん―「美を創る」コーナーの1回目は人形作家の林駒夫さんですね。あの方が作られる人形は400万円の高値がつきます。
中島さん―叔父は自分の知り合いからまず取材していきましたね。その道の大家ばかりを取材していました。でも、登場していただいた方々の多くがもう既に亡くなられていますね。 出雲路さん―でも、技は絶えないで続いている。伝統工芸の強みというか、上京区という土地柄のように思います。

中島さん―「美を創る」では伝統工芸ばかりでなく、現代的な分野に取り組む人にも取材に行っていました。フラワーアーティストの「花工房」社長 辻井季生さん。この取材がきっかけで文化振興会に入会してもらいました。

出雲路さん―ステンドグラス工芸家の清水伯夫さんの取材にも行きましたね。掲載時にステンドグラスの写真(中央青いステンドグラスの部分)の天地が逆になってしまったことに後から気が付き、修正が効かなかったので、謝るしかありませんでした。今思えば笑い話だが、あの時はひやひやでした。ご本人が寛大で、許してくれましたが。

天岡さん―叔父様(故中島孝廸さん)の話で思い出はありませんか?創刊当初の苦労とか。
中島さん―人脈がある人だったから,取材先には困らなかったようです。書きたいこともたくさんあったし、(記事を)書いてもらう人脈も豊富でした。逆に、もっと自分が書きたかったのではないかと思います。

天岡さん―中島さんがお亡くなりになって、出雲路さんが後を継ぐようなかたちで「美を創る」のコーナーは引き継がれていきます。これまでの取材先のうちで、出雲路さんが一番印象に残っている取材先はどちらですか。
出雲路さん―杼(ひ)を作られている長谷川淳一さんです。
天岡さん―五辻通にあるお店ですね。
出雲路さん―そうそう。どこかないかなぁと、思いながら歩いていて、看板が目に入って、飛び込んだんですよ。まさに、飛び込み取材。でも、快く引き受けて下さって、すぐその場で取材をしました。

出雲路さん―杼とは、機にかかる経糸の間に緯糸を通す道具で西陣織 をはじめとする機織りには絶対に欠かせない道具です。主材料は、九州の赤樫で祇園祭の鉾の車輪に使われているものと同じ素材です。それを土蔵で長い間乾燥させてから使用します。長谷川さんのお店は、大正末期におじいさんの辰之助氏が創業されて、現在の淳一氏で三代目です。お店のある五辻通は、千本通から七本松通にかけて、西陣織に関わるお店が数多くあるところです。

天岡さん―西陣織も機械化されて手機を使える人ってほとんどいないでしょう。新たな需要はあるのでしょうか?
出雲路さん―もともと破損しないように固い材料で作っています。今は、廃業者からの杼も出回っているので、修理が主な仕事だということです。新たな需要はないに等しいかもしれません。
天岡さん―せっかくの技術なのにもったいないですね。
出雲路さん―伝統工芸の難しいところです。長谷川さんの後継者はいません。畳三畳間ぐらいのところに座って、すべての道具が手の届くところにあって作業されていた姿が印象的でした。

天岡さん―「美を創る」のコーナーの取材先で、中島さんが一番印象に残っている取材先はどちらですか。
中島さん―私は、表具用古代裂制作の廣瀬賢冶さんかな。千年前の生地を修復するお仕事をしておられます。文部科学大臣が選定する有形・無形文化財の保存に必要な修理をされる技術保持者として認定を受けられている凄い人です。でも、我々は上京区体育振興会連合会の会長(平成13年~22年就任)をされていたことしか知らなくて、気楽に体振の会長さんとして接していました。「美を創る」のあの記事が出て、体振の人たちもみんなびっくりでした。

天岡さん―家で仕事をする職人さんが地域の役員をされてきたから、京都のコミュニティは守られてきたのかもしれません。そういう意味で、鍛冶師の成瀬日出夫さんも、地域の役員を務めながら仕事をしてこられた方です。

天岡さん―お亡くなりになってしまいましたが、成瀬さんは強く印象に残ってい ます。上京歴史探訪館でお世話になった際に、筍を掘る農具にたくさんの種類があることを教えていただきました。
出雲路さん―それは「ホリ」という独特な農具です。成瀬さんがつくられる「ホリ」でないと、品質の良い洛西の筍は掘れないんです。土によって道具が異なるので、産地に合わせて作っているとおっしゃっていました。取材を終えて成瀬さんと握手をしたら、手がつぶれるかと思うほどの握力でした。まさに職人の手でした。

天岡さん―「美を創る」の思い出は尽きません。出雲路さん、中島さんにとって感慨深いコーナーでした。常に取材先を求めてアンテナを張り巡らし、歩き回った出雲路さん。叔父さんが始められて想いを受け継がれた中島さん、お二人にとって今までの積み重ねは大変貴重なものです。このコーナーだけを抜き出して一冊の本になるほどの、上京区の貴重な資料になる、そんな価値があると思いました。

天岡さん―「上京の大路小路」のコーナーについてお伺いします。あのコーナーは、出雲路さんが担当されていらっしゃいますね。
出雲路さん―あのコーナーのために写真を撮りながらよく歩きました。敬老乗車証をもらってからは交通費がかからなくなったから随分と取材が楽になりました。

天岡さん―記事を比べてみて昔と今とで風景等が様変わりしたところはありませんか。私は小学校の時に、地域のことを調べる授業があって、岩神祠(いわがみのほこら)を調べて発表したのですが、最近、同じところに行って、あまりの変わりようにびっくりしました。岩神祠も、昔の中島さんの写真と最近の出雲路さんの写真とはずいぶん変わっていますね。
出雲路さん―あそこは整備が進んだから。
天岡さん―そういう移り変わりを残すのも『上京―史蹟と文化』の大切な役割ですね。
出雲路さん―そうです。

天岡さん―(出雲路さんの手が一冊の冊子に伸びているのを見て)京都市自治百周年事業でつくられた『上京区の史蹟百選』は、それまでの取材の集大成というべき事業ですね。
出雲路さん―(満面の笑みで)表紙の地図は私が持っているものを使いました。有料冊子で300円で販売したが、よく売れましたよ。
天岡さん―歴史好きな人には喜ばれる内容ですから。
出雲路さん―とにかく、上京区内には多くの史蹟があるので選ぶのが大変でした。『上京乃史蹟』の最終号で区民が選ぶ史蹟百選を募集したのでそれを参考にしましたが、学区ごとに偏りがでないよう配慮するのが大変でした。
天岡さん―この『上京区の史蹟百選』は、今も販売を続けていて、他府県からも歴史好きな人が地元のマニアックな情報を求めて買いに来られます。


天岡さん―お二人の思い出話は尽きませんが、今後の『上京―史蹟と文化』の展望にについてお聞きしたいと思います。
出雲路さん―『上京―史蹟と文化』はこれからも継続して製作し区民の方に広く手に取ってもらいたいですね。
中島さん―頑張って取材して、立派な冊子に仕上げているのだから、ひとりでも多くの区民に読んで欲しいです。それだけの価値あるものだと思っています。

<最後にインタビュアーの天岡さんから>

お二方とも、長い間、『上京乃史蹟』、『上京―史蹟と文化』の取材と執筆を通じて、上京区の歴史文化の掘り起こしと、その伝達に努めてこられました。これは、大きな功績です。「やっていて楽しかったから」と、お二人は笑顔で返されますが、仕事の合間の取材と執筆は容易なことではなかったでしょう。けれども、その苦労を感じさせないほど、お二人の笑顔は素敵でした。今までの仕事に対して自信と自負があふれていました。お話を伺いながら、いい仕事をされたんだなあと、つくづく感じました。お二人が尽力された『上京―史蹟と文化』の発行が、長く続きますように、上京区の歴史と文化を愛する方がさらに現れて、一層充実した冊子の発行につながるように願ってやみません。

カミング記事 →『上京―史蹟と文化』第50号発行記念 第1弾~上京区文化振興会長 冷泉貴実子さんにお聞きする~
http://www.kamigyo.net/public_html/person/dantai/20161012/

レポーター

天岡昌代(京都市まちづくりアドバイザー下京区担当)

京都市まちづくりアドバイザー。

同志社女子大学文学研究科修了(単位所得満期退学)。専門は日本古代史。
『御堂関白記』『小右記』を中心に当時の貴族の墓制や仏教儀礼などを研究する。
上京区で西陣織に従事する家庭環境の中で育つ。
上京区との関わりは、上京歴史探訪館で地域の方と一緒に来館者の対応にあたったことにさかのぼる。ここでの経験が、まちづくりアドバイザーとしての業務におおいに役立っている。
趣味は古い街道を歩くこと。地域の文化歴史を地域活性化にいかに役立てるかを提唱している。

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