「今日は普段見ることのできない現場に入れます。西陣織がなんで高いんだろう?という疑問が解けるかもしれないですよ。」
2016年2月26日、イベント「Design Week Kyoto ゐゑ 2016」の一環で、西陣織織元、りんどう屋でランチミーティングが催された。その場でそう話をされたのは、「若手職人OJT事業」(注1)を利用して半年間、りんどう屋の佐々木さんに付いて、職人の修業をされた福田陽子さん。銀座の名店と言われる靴屋で靴製作の現場を直に見て、一方でWebデザインの仕事も手掛けるなど、ものづくりを様々な側面から見てきた。その後、お客さんの声が聞けるネットショップの世界に入り、呉服店のWeb店長となる。そこで着物への関心が高まり勉強を始めた。そのころ、アンティーク着物ブームが到来、通販でも有数の実績を上げる。しかしそこで自分の中で突き当たるものがあった。これは、伝統産業の職人のものづくりではない、と。
「アンティークやリサイクルが売れても職人さんに収入は入ってこない。これでは伝統産業は続かないですよね。」
素晴らしい技術を持つ、伝統産業の新しい商品を売りたい。しかしそれを作る職人がいない。ちょっと前の商品が回って値段が下がる現状を打破するには、職人さんを作ればいいのではないかと考える。そこへ伝統産業の次世代を担う人材育成のため立ち上げられた「若手職人OJT事業」を知り、自らが職人となることを決意した。
「西陣織を着物を着ない人へどうアピールするか、です。『欲しいな』と思う要素が大事です。この水玉のデザインは、年齢を選ばないのでいいなと思ってます。」
<ドット模様の商品>
また、今や西陣織はパソコンで作る。模様はドットで作る幾何学的な考え方。だから彼女は、「この仕事は、『今』を作るPCの世界と近いのでは」とも考える。新しさを求め、現状を打破したい思いが、彼女にこんなことを語らせる。
「もともと職人がオリジナルを作って売るのはタブーなんです。でも、今は、違うことをしている人だけが生き残っているんですよね。」
この日、ランチミーティングに来られていたのは、奈良にある「大原和服専門学園」の学生さん10名ほど。彼女たちは、着物が好きで、和装をトータルに学んでいるという。ここで驚いたのは、職人の世界に飛び込んだ福田さんの話に、真剣に耳を傾け、質問する彼女らの姿だ。若い人たちの間でプチ・着物ブームが訪れているとも聞く。福田さんや彼女らの熱気に包まれていると、まだまだ着物にも未来があるのではないだろうか、と期待を持てた語らいの時間だった。
着物好きが増えてほしいから、福田さんは「小さな頃から日本文化に触れてほしい」とも話されている。また、西陣織は着物用とは限らない。若い職人さんには新しい取り組みも期待されている。生き残るために、「モノを作る人が自分で売る」ことが求められ始めている。課題もたくさんある。デザインのこと、製造や販売システムのことなどなど…
その時、学生さんたちを見つめる、福田さんの目が輝いた。
「ぜひ、他の業界ともコラボしたいですね!」
彼女の目標はどこなのか。西陣織をどこへ持って行きたいのか。ずっと注目していきたい人だと思った。
注1)京都府・京都市・京都試作センターによる、「京都の伝統産業において就職又は創業を希望する若年求職者や若手職人を一定期間直接雇用し、京都の伝統産業の特徴やビジネス上必要な知識の習得を行う研修を実施するとともに、一定期間企業に派遣して、より実践的な研修や技術の習得を図るOJTを実施し、就職又は自立創業に繋げる」事業。
鳴橋明美
上京区西陣に生まれ育ってウン十年、現在も上京区で主人と一緒に京組紐を生業としています。また、実家を「京都桐壷庵」と名付け、京都の伝統産業を広める活動を始めました。愛する京都、上京区をさらに深く知ることができるマチレポを知り、ちょっと感想を言うだけのつもりが、レポーターになってしまいました!取材を通じて改めて上京の奥深さを感じ、また、人との出会いに感動しています。これからも未開拓の京都を発見していきたいです。