皆様は、路地と聞いてどのようなイメージがありますか?
狭い、入りにくい、不思議といった見た目の物から、災害時に心配な場所、子どもが遊んでいる場所など住民さん視点のイメージがあるかもしれません。今回ご紹介するのは「路地」に関係する約50の動画コンテンツを集め、テレビ番組のようにチャンネルと番組表をつくり一気に配信する挑戦的なイベント「路地tv 2021 from 西陣」です。実施は令和3年1月16日(土)10時~17時で、当日はYouTubeでのLIVE配信でしたが、現在はHPからアーカイブで各番組がご覧いただけます。
ところで「路地tv 2021 from 西陣」というタイトルを見て、なぜ路地?なぜtv?なぜfrom西陣?という疑問がわいてきます。それについての回答は、総合ch「総合番組ガイド(オープニング)」にて説明がありました。
番組は、大島祥子さん(都市移住推進研究会)の司会進行で、冨家裕久さん(こどもの路地実行委員会)と飯髙克昌さん(NPO法人ANEWAL Gallery)がお話しされています。
飯髙さんによると、路地にこだわる理由は、防災面では危険で課題が多いということばかり注目されている路地だが、そればかりでは自分たちが住んでいる地域の元気がなくなる、だったら良い面を探そう、路地は車が入ってこないので子どもにとって安全だし、遊びもできて情操教育を育む空間であることに着目しよう、また西陣ではものづくりも路地奥で盛んである、このような側面から路地を元気にし、結果西陣を元気にしよう、という思いがあるからでした。
さらに、路地は日本各地、世界各地にあり、どこも同じような地域課題に直面しているのではないかと想定し、西陣だけ元気になればいいということではなく、世界中の路地の良い面を再評価して路地があることでそのまちが良くなるというムーブメントを起こすため、京都の西陣発信で各地の人と一緒に企画を動かしたい思いからのfrom西陣。そして、TVとしたのは、地域ごとに路地の個性、多様性があるので、路地にまつわる多様な視点を番組としてチャンネルの集合体で一般の人に提供し、好みや興味がある分野テーマを選んで見てもらいたいからということでした。
チャンネルの概要は、
総合チャンネル:一般的に誰にでも楽しめる番組、生放送など
文化チャンネル:路地の歴史、文化、コミュニティに特化
教育チャンネル:アカデミックなアプローチ、子どものための路地空間の発見、建築士等による路地に対する視点などの解説
地域チャンネル:世界各地、日本各地の路地の様子を楽しめる内容
番組合間の世界の路地スライドショー:51ヶ国と地域の路地を写真で紹介
以下、視聴したいくつかの番組の簡単な内容をご紹介します。
Zoomを利用して全国各地のプレゼンテーターが生放送でプレゼン、意見交換を行います。参加地域は、福岡博多市春吉地区、徳島県牟岐町、兵庫県神戸市駒ヶ林地区、西陣、滋賀県米原市、東京都墨田区向島。
各地のプレゼンを見ることで、各地の路地事情、成り立ち、路地の認識、路地の呼び方が違うことを知ることができます。<教育ch 路地まち散歩 神戸編>や、地域chを視聴する前にこちらをご覧いただく方が分かりやすいかもしれません。
案内人はこどもの路地実行委員会の冨家裕久さん。ご本人の家の前からスタートしご近所の様子、路地の幅、形、距離感がよくわかります。途中に甘酒を飲む様子はまるでテレビ番組のようです。翔鸞学区の路地の雰囲気が非常によく伝わる番組です。
京都市は歴史的な経緯や細街路が多いことから防災意識が高く、全国の政令市の中で最も火災が少ないと言われているそうです。地域防災の歴史が蓄積されている上京区の防災活動について、桃薗学区、成逸学区、自主防災会会長等、上京区自主防災会協議会会長へのインタビューです。各学区のこれまでの取組み、今年度のコロナ禍での取組の様子、各会長の防災への思いが伝わります。
私は個人的に杉崎・永井一家とは知り合いです。常日頃、路地で仕事をされているとSNS発信されているのを見ていたのですが、実際に杉崎さんの仕事中の様子が見られて満足しました。その上で路地を拡張リビングとして使用されていると改めて理解し、路地の可能性は広がるなと感じました。
<地域ch “Curée(以下クレ)”フランス リールの路地>で見たクレの歴史的な背景が、織物産業とともに栄え衰退し、同じように職人が住んでいた路地奥が若者の手によって再活性化される流れで、西陣と完全にリンクをしていて非常にびっくりしました。路地というニッチなテーマにもかかわらず、世界の視点が入ることでその歴史的背景が大きく広がる可能性を感じました。
一方で<文化ch 路地まち散歩 釜山編>で、再開発のため現在廃墟となった西面(ソミョン)地区は、朝鮮戦争時に逃げて南下した人々の集住地区でした。ところが案内人の韓勝旭(ハン ソンウク)さんの話によると、調べてみてもその成り立ち、地区の形成の過程、中央市場の屋上にも住宅街ができ路地があること等研究論文が非常に少ないのだそうです。文化の違いで研究的な視点が違うのかもしれませんが、路地に住む人がいなければ路地の歴史は語り継がれないのかなと感じました。廃墟となった西面について語れる人が誰もいないことを考えると、
今現在、各地の路地に住む人達に話を聞くことは非常に重要なことだと思います。
日本各地の路地に置いても、その成り立ちや名称が大きく違います。風土、地質、産業体系、社会情勢、文化等が路地を生む背景に影響したからです。そのことを知ったうえで現地に行くというのも新しい観光の視点になるのだと思いました。観光地ではない日常の風景である路地が観光の資源になる、その可能性を大いに感じましたし、動画を通してリアルな空間を視聴したからこそ、現地へ赴きたいとも思えました。
東京都墨田区向島は2011年に全国路地サミットを開催されました。2年後に京都でも開催されるようです。今回路地tvで表現されたような路地への視点が、一般に波及することで興味を持った若い世代が入居する、仕事場にする選択肢につながり、空き家の解消につながるだけでなく地域活性、地域ブランドになる期待を大いに持ちました。
また、今回のまち歩きの収録方法、YouTubeでの複数同時ライブ配信など技術を手にされた団体が上京にいらっしゃることでノウハウが共有され、今後のまち歩きイベント等の手法の進化につながると思うので非常に楽しみです。いずれにしても、この画期的なイベントが飯髙さんの思いのように西陣発で世界を巻き込むムーブメントになることを非常に期待します。
ご興味ある方は、「路地tv 2021 from 西陣」HPからアーカイブされた番組を是非ご覧ください。
(https://www.tv.roji-cul.net/)
進化するNPO-その2 ギアチェンジと進歩が「進化」の要 NPO法人 ANEWAL Gallery
(http://www.kamigyo.net/public_html/person/dantai/20210311)
松井 朋子(まつい ともこ)
4チャンネルが同時に配信されるとあって、事前に番組表を確認し見たい番組の目星をつけてみたのですが、時間が被っていたこともあり、私の場合は上記の写真のような視聴スタイルとなりました。パソコン2台とiPad2台を使った4チャンネル同時視聴です。都度、面白そうな番組の音量を上げて視聴することにしました。因みに、番組表によると休憩をとれそうなタイミングがなく、自宅で視聴したのにお弁当も用意しました。