「学生の街」京都で、シニアと学生による「異世代同居」を。京都ソリデール事業は、シニアが自宅の空き部屋を大学生等へ提供し、シニアと学生がひとつ屋根の下で交流しながら暮らしていく住まい方のことです。受託事業者が仲介し、訪問や交流会、お試し同居などを経て同居が始まります。現在、京都では43件(令和3年4月現在)の同居が実現。生活するうえでのルールをあらかじめ話し合っておくことで、それぞれに合った暮らし方で無理なく生活することができます。寒さが本格的になってきた12月上旬、実際にソリデールを利用し同居している岩井さんご夫婦と大学院生の王さんにお話を伺いました。
岩井さんご夫婦が学生を受け入れるのは王さんで2人目。1人目の方の紹介がきっかけで知り合い、岩井さん宅で開かれたクリスマスたこやきパーティーで初めて顔を合わせました。3月で同居開始から1年を迎えます。
中国からの留学生として京都に暮らす王さんは、岩井さんご夫婦との同居を始めたことで「どんな年代の人とも、『日本人』としてではなく、『個人』として接することができるようになりました。」「日本人との距離が近くなったと思います。」と話します。育ってきた家とは違う環境で、実の家族ではない人たちと暮らす日々には、たくさんの気づきや刺激があるのだろうと思います。一緒に住むということは、日常的にコミュニケーションを交わすということ。岩井さんは、「1人の大人として、言いたいことが言える関係」が理想だと言います。
取材をしている中で、王さんのことを「家族みたいな感じだな。」と少し恥ずかしそうに話す岩井さんのやさしい表情が印象的でした。毎日ではなくても、時間が合うときは一緒にご飯やおやつを食べ、京都府立植物園や福井県の小浜までお出かけすることも。それまで他人だったシニアと学生も、一緒に暮らし、日常を重ねることで家族のような存在になっていけるのかもしれません。京都ソリデールの事業は、「次世代下宿」と言われています。かつて京都でも多く見られた下宿のように、「帰る家がある」というのは学生にとって大きいのではないでしょうか。王さんも、「ここ(岩井さん宅)に住んで、自分の居場所が増えました」と笑顔で話していました。
京都特有の細い路地や木造の建物、昔の京都の雰囲気が所々に残っている上京区。王さんも、ついつい気になって路地に入り、迷子になってしまった経験があるのだとか。地域とのつながりや地域の方との交流をもつことは、一人暮らしの学生にとっては少しハードルが高いことかもしれません。しかし、地域の情報を知ることや災害時のことを考えると町内会に参加することで得られるメリットも多いのではないかと思いました。王さんも岩井さんご夫婦の勧めで町内会に参加。回覧板で見つけた「上京ウォーク」に参加してみたいと関心を寄せていました。現在は新型コロナウイルスの影響で町内会の地域活動は行われていませんが、コロナ禍以前は地蔵盆で地域の子どもたちと関わる機会もあったのだそう。しかし、子どもが減ってきている近年、そうした地域のイベントもいつかはなくなってしまうのかもしれません。
シニアと学生の世代間交流を可能にしている京都ソリデール。その交流を支援する(株)応用芸術研究所の片木さんは、これを「文化にしていきたい」と語ります。「知名度も大切だけれど、マッチングの数よりもその質を重視していかないと“暮らし”には合わないし、続いていかない。規模は小さくても、小さいことを確実に積み上げていくことが大事なのではないだろうか。」
人口減少、超少子高齢化社会にある日本。福祉の遅れや薄れていく異世代・異世帯のつながりに「このままでいいのか」と疑問を持った片木さんは、様々な不安を抱える現在・将来を自らの手で変えていこう、課題に取り組んでいこうと活動に励んでいます。公助が補完できない課題を、互助によって補っていく。シニアと学生をつなぐ京都ソリデールの活動は、今ある「家族」の概念をアップデートし、人々にあたらしい「豊かさ」を提供しているのではないでしょうか。
(取材日:令和3年12月10日)
白坂 咲々良
岩井さんご夫婦と王さんの暮らしを知り、私の中の「家族」の概念が変わりました。血のつながりはなくても、生活を共にし、相手のことを想いながら暮らす毎日が、シニアと学生を「家族」にしてくれるのだと思います。ソリデールの取り組みが、今後さらに多くのシニアや学生、そして地域の人々の「つながり 」を生み出し、京都が「共助」の街になっていけばいいなと思いました。