令和5年、57回目を迎えた上京薪能。
薪能とは、幻想的なかがり火の下、野外の能舞台で能・狂言などが演じられるというもの。
上京区民は毎年9月頃になると、京都市広報板のポスター掲示で見かけることも多いと思います。
上京薪能とはいったいどんなものなのか、どのように楽しめばよいのか、河村和重(かわむらかずしげ)上京薪能実行委員長にお話を伺い、当日の様子をレポートします。
薪能の起源は、奈良の興福寺の薪御能(たきぎおのう)とされています。神事能として他のいくつかの寺社でも行われてきましたが、近年は寺社の年中行事や能楽自体を観賞するための催しとして、春から秋の季節、全国で行われるようになっています。
京都では平安神宮で行われる「京都薪能」が夏の風物詩としても有名です。
「上京薪能」は昭和34年「能、狂言の夕べ」として、お話を伺った河村和重上京薪能実行委員長の祖父にあたる河村北星(かわむらほくせい)師と三世茂山千作(しげやませんさく)師(いずれも故人)の御尽力のもと、河村能舞台でスタートしました。
なお、現在の上京薪能は「火入式」の後に第二部が開始されますが、この「火入式」は「京都薪能」で取り入れられたもので、その後、京都から全国に広がったとのことです。
その後、「古典芸能の夕」、「区民薪能」、「上京区民薪能」と名称や会場も変更され、第40回、平成16年から現在の「上京薪能」になりました。(主催:上京区文化振興会、上京区役所 会場 白峯神宮)
屋外で開催されるため、雨天時は金剛能楽堂で開催となります。
現在は、白峯神宮秋季例大祭(9月下旬)に時を合わせて、夕方より、上京区にゆかりある文化人を中心に、観世・金剛流の能楽と大蔵流の狂言、麗調会の箏が、かがり火の映える特設舞台で演じられています。
上京薪能は各社中の方々の発表の場となる第一部、各流派の先生方による第二部の二部制の構成。能以外の演目も披露され、舞台にあがる経験の機会を創出しています。例えば箏の演奏があるのも上京薪能ならではかもしれません。
さらに、装束がきらびやかな西陣織というのも目が離せません。
能楽はもともと屋外で催されていたものであり、虫の声や風の音などを感じながら本来の形で鑑賞するお能は、開放感があり気持ちの良い時間を過ごせます。
「一番は、雨が降らないでほしいこと。」
開催1週間ほど前でのインタビューということもあり、準備も順調に進んでおり、あとは無事に遂行できるよう願うばかり。河村和重実行委員長からは屋外で開催する薪能ならではの願いを伺いました。
先述のように雨天時は、金剛能楽堂で開催されますが、過去には途中で移動したこともあり、とても大変だったそうです。
演目については、幻想的な雰囲気の中で行うため、できるだけ動きがある演目を選ばれているそうです。あらかじめ上京区役所のホームページにて紹介されますので、要チェックです。
それぞれの楽しみ方で能を満喫してもらえればと思いますが、演目のあらすじを知っておくと、お囃子や能特有の動き、薪能ならではの幻想的な景色をより楽しんでいただけます。
第57回上京薪能は、雨天予報となり、前日のうちに、白峯神宮ではなく金剛能楽堂で開催されることがアナウンスされました。
また、今年は初めてオンラインでのチケット販売が行われ、受付には二次元コードの読み取り機がセットされていました。
第1部も予定どおり午後4時に開催され、午後6時頃、第2部が始まりました。
「上京区は文化力の高いエリア。だからこそ文化が輝きを持って次の世代につないでいけるように願ってやみません。」という冷泉貴実子上京区文化振興会会長のあいさつが印象的でした。
原区長の挨拶によると、上京薪能では過去9回雨が降り、今回で10回目の雨、さらに途中で雨が降ったことも3回あったそう。「天から降る雨にはご利益があると言われており、この会場にいる皆様にも幸せがある」として、長年にわたり文化を支えてくださっている区民、文化振興会の皆様に感謝が述べられました。
そして、白峯神宮での場合はここで火入式なのですが、屋内では火入式は行われず、修祓(しゅばつ)という清めの儀式も行われました。
白峯神宮による祝詞秦上があり、心身の罪穢(つみけがれ)が祓われました。
能舞台と観客の距離が近く、地謡(じうたい)の腹の底に突き刺さるような響き、仕舞の迫力、狂言では笑いがあり、観客と一体となっていたのが印象的でした。
そして会場は満席。着物姿の方、子どもの姿、海外の方の姿もあり、上京区の文化力の高さ、文化と未来への希望を感じました。
少し予習をしていくと、より能の世界を楽しむことができますが、初めての方もぜひ幽玄な世界を体感してみてはいかがでしょうか。
岡元麻有
雨ならではの貴重な経験をさせていただきました。屋外での薪能もまたぜひレポートさせていただければと思います!