3月2日(土)と3日(日)の二日間、「千両ヶ辻ひな祭り 桃の節句の彩り 第5回」(以下、「千両ヶ辻ひな祭り」という。)が行われました。
今出川通から中立売通までの大宮通は、昔から生糸問屋や織物商が店を構え、江戸時代に一日千両に値する商いが行われたことから「千両ヶ辻」と呼ばれています。その千両ヶ辻一帯では、地域を盛り上げるために店主や住民が中心となった実行委員会が、毎年秋に「西陣伝統文化祭「千両ヶ辻」」を開催しています。秋のお祭りが定着し、軌道に乗ってきた頃「春にも賑わいを」との機運の高まりから、「西陣伝統文化祭「千両ヶ辻」」を通じてご縁ができた写真家の水野克比古さんと水野秀比古さんが町家写真館でお雛さまを飾り、四季の写真を展示されていたことをきっかけに「千両ヶ辻全体で雛飾りを展示してみよう」と話がまとまり、2016年から西陣伝統文化祭「千両ヶ辻」実行委員有志によって千両ヶ辻ひな祭りが開かれるようになりました。
千両ヶ辻ひな祭りの目印となるお雛さまの風呂敷
お雛さまが飾られている町家や旅館、カフェ、お寺を訪れると、部屋のしつらえに日本の伝統美が感じられ、とても豊かな時間が流れていました。
住民や店主から「おばあちゃんが孫のために買ってくれた雛飾りです」「こちらは、かつてお公家さんが所有していたお内裏さまとお雛さまですよ。江戸時代、庶民が暮らす長屋には雛飾りを置くスペースはありませんから、掛け軸を飾ることもあったようです」などのエピソードを聞きながら、江戸から昭和にかけて作られた雛飾りを巡ると、時代の変化を感じると同時に、子どもの成長を願う気持ちやお雛さまの風習は今も昔も変わらないことが感じられました。400年の時を行ったり来たりしつつ、日本の生活文化の豊さが感じられる展示でした。
訪れる方たちも「昔のお人形さんの表情が豊かで素敵です」「町家に飾られている雛飾りが部屋と調和していてうっとりします」と展示を楽しんでいる様子。近所の学童クラブの子どもたちが7人ほど見学にやって来ると「家にも雛飾りがあるけれど、自分の背丈ほどある雛壇を見るのは初めてだから驚いた」「色々な形の人形があった」と感想を伝えてくれました。
二日間の催しのうち、3月2日は町家見学や雛飾りの展示が中心に行われ、3月3日は、展示に加えてたくさんの飲食ブースが軒先に並びました。西陣伝統文化祭「千両ヶ辻」実行委員長を務め、千両ヶ辻ひな祭りの運営の中心を担う深田祥二さんにお話を伺うと、催し物の開催を継続するにつれて「何か食べるものはありませんか」と尋ねられることが増えたことから、そのリクエストに応えようと飲食ブースの出店につながったのだそうです。その際、心掛けているのが地域主体であること。
訪れる方に楽しんでもらうと同時に、地元を活気づけるためのお祭りなので、地元の方や地元で紹介してもらった方に出店してもらうなど、人のつながりを大事にしているとのことでした。
「千両ヶ辻ひな祭りの取組を粋に感じて地域の方々に協力していただいているので、無事の開催を祈りつつも、万が一の破損に備えて保険をかけて、でき得る限りの責任を取ろうと思って準備しています。来訪者の方に「ああ、良い人形だった」と喜んでいただき、まち歩きを楽しんでいただけたら嬉しいです」と深田さんは語ります。
深田さんとともに千両ヶ辻ひな祭りの運営を担い、生まれ育った千両ヶ辻をこよなく愛する仲治實さんは「風情ある町家と街並みを知ってもらうとともに、近年オープンした店などの千両ヶ辻の新しさ、若い方たちの力も感じてもらえたら嬉しいです」と、
人やお店が新旧入り混じることから生まれる街の面白さや活気について伝えていただきました。地域のイベントなどで人力車を引く同志社大学のサークル「人力俥友之会」や、餅つき体験会を企画した社会福祉法人西陣会スタッフを始めとする若い方々の協力は、お祭りに賑わいをもたらしていました。
雛飾りで彩られる春の千両ヶ辻を訪れて、皆さんも歴史の深さや人の温かさを感じてみませんか。
千両ヶ辻に賑わいをもたらす西陣麦酒のビールや台湾料理の屋台(写真左)、温かいかす汁、おにぎり、お漬物(写真右)などの飲食ブース
亀村 佳都
まちづくりアドバイザー
千両ヶ辻ひな祭りを訪れて、江戸時代から今に続くまで雛祭りが行われていたことを実感しました。御所の紫宸殿を模した御殿雛の繊細な作りや、飾られているお人形さんの表情をゆっくりと眺め、ブースやイベントを巡っていたら時間があっという間に過ぎました。来年もまた行きたいです!