2024年11月9日(土)、梨木神社でことなり京都「第1回京都やおよろず文学賞」が行われました。主催したのは「神社仏閣をもっと身近に」という上京区に拠点を置く団体です。文化やアートの力を借りて、神社仏閣の価値や魅力を地域住民や若い世代に伝え、新たなファンを生み出そうと活動し、これまでに大原野神社での夜間紅葉ライトアップや、上賀茂神社での絵本展を開催してきました。
梨木神社は、学問・文芸の神様として崇敬を集める三條實萬(さんじょうさねつむ)公と三條實美(さんじょうさねとみ)公が祀られており、また、秋には萩が咲き誇り「萩の宮」として知られ、昔から和歌が詠まれてきたそうです。
「神社仏閣をもっと身近に」のメンバーは、梨木神社ならではの取組として、文学賞の創設と萩のトンネルを制作し、授賞式を梨木神社で行うことに決めて、実行委員会を立ち上げました。
▲京都三名水のうち唯一現存する染井の水。今も清らかな水が湧くことで知られています。
「京都×愛」「京都×雅」「京都×歴史」「京都×神頼み」の4テーマを設け、京都を舞台にした800字の短編小説の募集をSNSや公募ガイドで呼びかけたところ、446通もの作品の応募がありました。ミステリ作家の円居挽(まどいばん)さんと文芸評論家の三宅香帆(みやけかほ)さん、作家の大滝瓶太(おおたきびんた)さんの3名に審査員を務めていただき、入賞者20名の発表と2つの佳作、最優秀賞の授賞式が行われました。
佳作と最優秀賞に選ばれた作品は、朗読された後に審査員の講評があったため、会場にいる来場者も作品について知ることができました。
深泥池を舞台に「ほとりの公園」という短編小説を書いて佳作を受賞したケムニマキコさんは、残念ながら授賞式に参加できなかったため、「京都のスポットライトの当たっていない場所に、京都の魅力はまだたくさんあります。文学が、京都の魅力をも発掘するものになればと願います」とのコメントを寄せられました。
続いて、佳作として選ばれたのが神農さんの「鴨川ラーメン」です。神農さんは、旅行で訪れた韓国の川沿いでラーメンを食べたことから着想を得て、京都で過ごし、水を汲みに出かけていた学生時代を思い出しながら小説を書いたそうです。神社で水を汲み、お茶を点てるという雅さと大学生が鴨川で袋ラーメンを食べる場面が描かれている作品は、「京都×雅」というテーマにおいて、雅なだけではない点が評価されていました。神農さんは、「日頃作品を読んでもらう機会や、感想や講評を聞く機会はあまりないので、とても嬉しかったです。これからの励みになります」と受賞後におっしゃっていました。
最優秀賞は箔塔落(はくとうおちる)さんの「あなたはここにいる」という「京都×愛」をテーマにした作品でした。「三十三間堂を舞台に二人称の「あなた」を用いて書かれた物語は、書き出しから最後まで失速せずに「800字走」を書き切った良作でした」と審査員から高く評価されました。箔塔さんは「本日お礼参りをかねて三十三間堂へ行きました。第1回受賞式で、この場に立たせていただいたことに感謝いたします」と喜びを表現されました。
実行委員会が京都大学建築学科の学生や先生の協力を得て作った萩のトンネルは「萩のまにまに」と名付けられました。向日市の放置竹林で伐採した竹を使い、自然素材ならではの温かさと美しさを感じられるようにしました。萩は1年で1.5メートルも伸びるので、トンネルをくぐりながら、新緑の季節、花が咲き誇る9月、秋の紅葉など、季節の移ろいも感じることができそうです。竹のアーチの間隔は、梨木神社の鳥居に近づくにつれて広く取って変化を出したほか、元々敷かれている石畳の境目と、トンネルの支柱の位置を揃えることによって、通りゆく人に違和感を感じさせない工夫が施されています。そのためか、萩のトンネルはあたかも昔からあったかのように景観に溶け込んでいました。
授賞式に合わせて、キッチンカーや文芸同人誌即売会のブースが並び、ランチやおやつを食べながら、本との偶然の出会いや作者との会話を楽しめるイベントになっていました。
▲文学、詩、マンガなど様々な切り口で文学に触れることができました。
▲カレーや丼、タピオカドリンク、クレープなどの食事やスイーツが楽しめました。
第1回京都やおよろず文学賞の授賞式を終えたところで、円居審査委員長が総括されました。「ゼロから賞を立ち上げたため作品が集まるかどうか不安でしたが、蓋を開けたらたくさんの応募がありました。初回を終えての反省点も出てきます。例えば、テーマ設定では、愛や雅ではバリエーション豊かな作品が集まりましたが、神頼みというテーマでは、神社で好きな人を思う話など「京都×愛」のテーマとの違いがはっきりしませんでした。
広報は「X(エックス)」中心だったので、次回は他の広報媒体でも呼びかけてみたいですね」と来年への期待を込めて語られました。
「第2回目もあったらいいな」と願う、文化や自然に触れられるイベントでした。
神社仏閣をもっと身近に実行委員会事務局
代表 椹木秀明
住所 京都市上京区中之町507-6 お衣裳さわらぎ方
ことなり京都ホームページ https://kotonarikyoto2018.wixsite.com/kotonari-kyoto
MAIL kotonarikyoto2018@gmail.com
X(旧Twitter) @mottomijikani
Facebookページ https://www.facebook.com/mottomijikani.jp
亀村佳都
まちづくりアドバイザー
自然と文学の魅力を感じる梨木神社で、文学に向き合う人だけでなく、京都が好きな人、地域を盛り上げたい人が集ったイベントは、日頃文学に接しない人をも優しく迎えてくれる雰囲気で、肩肘張らずに文学に触れられるところがとても魅力的でした。また、授賞式で入賞者の方と知り合い、「生涯学習のつもりでこれからも書いていこうと思う」との文学への思いのほか、今回の文学賞を通じてスタッフの皆さんとご縁ができ、萩のトンネル制作への寄付の呼びかけに対して、単なる資金集めとは違い、「芸術、文化を守りたい」という京都の粋を感じて寄付されたことを伺い、温かい気持ちになりました。