『上京―史蹟と文化』第50号発行記念 第1弾
      ~上京区文化振興会長 冷泉貴実子さんにお聞きする~

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平成28年2月15日発行において、『上京―史蹟と文化』(※1)は、めでたく第50号を迎えることができました。このたび第50号の発行を記念して、上京区文化振興会(※2)会長の冷泉貴実子さん、そして出雲路敬直さん、中島源和さんの両副会長にお話しをうかがいました。まずは、冷泉貴実子さんへのインタビューを紹介します。

参考 『上京―史蹟と文化』の第50号、およびバックナンバー
http://www.city.kyoto.lg.jp/kamigyo/page/0000083714.html

(※1)上京区民ふれあい事業実行委員会は、上京区内の各学区や各種団体の代表者で構成され、区民とのパートナーシップによるまちづくりを目指し、個性あふれる区づくりをより一層推進することを目的として、区民ふれあいまつりや史蹟ウォーキングをはじめとする様々な事業を実施しています。そして、上京区の文化の発展向上に関わる会員により構成され、昭和40年から毎年開催する「上京薪能」や「上京茶会」のほか、「上京文化絵巻」等の事業、そして『上京—史蹟と文化』の編集発行を、上京区民ふれあい事業実行委員会ふれあい文化だより部会の主管団体である上京区文化振興会(昭和33年設立)が担っています。

(※2)『上京―史蹟と文化』の前身は『上京乃史蹟』(『上京史蹟だより』として昭和51年に開始し途中名称変更)で、平成3年度区民ふれあい事業の開始に伴い、上京区民ふれあい事業の一つである「ふれあい文化だより」という位置づけから、年2回の発行と上京区内各世帯に配布しています。

冷泉さん―400年も上京区に住んでいます。

と、にこやかに誇らしげに答えられるのは 冷泉家時雨亭文庫の冷泉貴実子さん。今回は、『上京-史蹟と文化』第50号の発行を記念して上京区文化振興会会長である冷泉貴実子さんに今後の展望をお話しいただきました。

はじめに、会長を務められている上京区文化振興会の話からお聞きしました。
『上京-史蹟と文化』では、上京区文化振興会が主催する「上京文化絵巻」(上京区にお住まいの文化人を招いた講演会)のことを報告という形で載せています。第49号(平成27年8月号に「江戸時代の公家街」という題で冷泉貴実子さんが講演された内容を掲載しており、その時の記事を見ていただきながらお話しされました。「400年住んでいます」と、言われたのは、久しぶりに記事をご覧になっての率直な感想だと思います。

冷泉さん―400年も上京区に住んでいるので会長職を引き受けましたが、樂さんも千さんも同じところに同じように長いこと住んでいる。そう思うと、責任感が和らいで、少し気が楽になりました。『上京―史蹟と文化』を改めて見て、この仕事を引き受けてから、やっぱりここは都なんだと強く感じます。

樂さんとは、樂焼・陶芸家の樂家十五代樂吉左衛門さん。安土桃山時代に、黒樂茶碗を生み出して茶道界をリードしする樂家の当主。千さんとは茶道三千家の一つである武者小路千家家元の千宗守さん。冷泉さんの口調では「ご近所さん」のように親しげですが、いずれも先祖代々上京区にお住まいの日本を代表する文化人です。もちろん、このお二方にも「上京文化絵巻」でご講演いただきました。

参考
上京区新庁舎開庁記念イベント支援事業の実施予定
http://www.city.kyoto.lg.jp/kamigyo/page/0000177815.html
『上京-史蹟と文化』第49号PDF13頁目
http://www.city.kyoto.lg.jp/kamigyo/cmsfiles/contents/0000083/83714/15.49.pdf

親しげなお隣さんのように何気ない日常で文化が過ごしている、本当は凄い人たちなのに、その人たちが上京区という狭い地域で、ものすごく近い距離間で住んでいる。他の地方都市では考えられない、京都ならではのことであり、特に、上京区ではそれが地域の魅力であるにもかかわらず、当たり前過ぎて区民の多くは気づいていない。そんな区民に届けられる『上京―史蹟と文化』は、上京区の素晴らしさを改めて教えてくれる読み物なのです。

冷泉さん―この冊子(『上京―史蹟と文化』)をつくることは地味な仕事だけど、いいお仕事だと思います。

冷泉貴実子さんは、『上京―史蹟と文化』では、伝統文化や伝統工芸等の分野で卓越した技術を持つ人を訪ねるシリーズ「美を創る」に特に関心があると言われます。上京は職人さんのまちでもあるからと。
上京区は、冷泉貴実子さんが言われるように、冷泉家をはじめ、表千家、裏千家、武者小路千家など日本の文化史を先導してきた名家が数多く存在する傍ら、伝統工芸に従事する職人さんが多く住んでいるところでもあります。あまり知られていない職人の仕事に密着して、紙面を通じて知らせていくそんな地道な記事がシリーズ「美を創る」なのです。このコーナーでは、そんな伝統産業に従事する職人さんや新進気鋭の現代作家、京菓子関係者、能楽師など実に多岐にわたって紹介しています。

技術を継承することは大変なことです。西陣織をはじめとする伝統工芸品は、一人の職人によって完成するものではありません。細分化した工程を一人一人の職人が担当して一つの反物として完成させて世に出す。その部分部分の工程は表に出にくく、わかりにくいけれど、それぞれが人間国宝のような人が手掛けていて、ひとりが欠けてしまえば反物が作れなくなってしまう。地道な手工業の世界です。

冷泉貴実子さんは、一人一人の職人の存在と仕事感が大切だと言われます。そして、そんな人たちが宝物で、宝物を多く有しているのが上京区の誇りなのだと言われます。隠れた技を持つ職人にスポットライトをあてて、シリーズ「美を創る」の紙面で紹介することが、技術の伝承につながればいいし、『上京ー史蹟と文化』が果たす役割は大きいと言われます。

冷泉さん―もっと知ってもらいたいけど、若い時には興味がないから・・・

京都は学生さんのまちです。特に上京区には同志社大学があり、日本の歴史文化を学ぶ学生さんにとっては活きた学問が出来るところだと思います。京都の歴史と文化を住民目線で紹介する『上京―史蹟と文化』は、その教科書的な役割が担えるのではと思います。

冷泉さん―『上京―史蹟と文化』は学生さんが上京のことを知る入口にはなるね。せっかく京都に来られたのだから、もっと知ってもらいたいけど、若い時には歴史や文化に興味がないだろうから。御所も公開しているのに、繁華街に足は向いても、こっちには行かない。忙しいらしいけど、上京区を地元(上京区に住んでいる、通っているという意味)としてみる機会は今しかないのに、足元(上京区)をなかなか見てくれない。日本文化の広がりは足元(上京区)からなのに、それが残念です。

『上京―史蹟と文化』には「大路小路」というコーナーがありました(第48号で終了)。上京区内の今出川通、千本通などの大きな通りや笹屋町通、紋屋図子など細い通りを取り上げて、そこに点在する寺社や旧跡を紹介しています。観光ガイドブックでは紹介しないマニアックな話を中心に歴史に特化した内容になっており、教科書よりも詳しく、フィールドワークには最適です。インタビュアーの天岡も何度も記事を参考に留学生の方とまち歩きをしたことがあります。歴史マニアには格好の読み物なので、遠く奈良県の方からも「欲しい」と問合せがありました(※3)。

(※3)上京区役所地域力推進室まちづくり推進担当において、有償で販売(1冊100円)しています。

写真も入って、内容はガイドブックよりも深く書かれているので、上京区のことをもっと知りたいというリピーターに買い求めてもらう手法が必要なのではないかと思います。

『上京―史蹟と文化』は、 平成3年度から年2回発行し、上京区内の各世帯に配布しています。冷泉さんが行かれる歯医者さんの待合室にもおいてあって待ち時間に読まれるそうです。

冷泉さん―「行政区の仕事としてはたいしたものだと自画自賛しており、今からこのような冊子をやろうとしても立ち上げるのは無理でしょう。企画をして、記事が書ける人材がいないとできないし、地域に文化人がいないとできない。先人が作ってくれたものを止めるのはたやすいけれど、維持していくのは大変。けれど、一度止めてしまったものを再び興こすことは、不可能に近い、だから今携わっている者で努力して 続けていかねばならないと思います。

企画、取材、冊子づくり、そして配布するシステム、上京区民の手元に届けるまでの工程すべてにおいて維持していくことが大切だという思いをお持ちです。

『上京―史蹟と文化』を上京区民の手元に届けることは、伝統工芸の手工業の世界に似ているのではないかと、この記事を書きながら思いました。企画して、取材して、写真を撮って、かたちにした『上京―史蹟と文化』は一つの作品です。それを、配布ルートに乗せて各戸に届ける。届けた後は、区民によってさまざまな用途で使われる。上京の歴史と文化を伝えるツールとして、また地域の繋がりを感じさせ るツールとして、長く活用していただきたいと思います。

カミング記事 →『上京―史蹟と文化』第50号発行記念 第2弾~上京区文化振興会長 冷泉貴実子さんにお聞きする~
http://www.kamigyo.net/public_html/person/dantai/20161012_2/

レポーター

天岡昌代(京都市まちづくりアドバイザー下京区担当)

京都市まちづくりアドバイザー。

同志社女子大学文学研究科修了(単位所得満期退学)。専門は日本古代史。
『御堂関白記』『小右記』を中心に当時の貴族の墓制や仏教儀礼などを研究する。
上京区で西陣織に従事する家庭環境の中で育つ。
上京区との関わりは、上京歴史探訪館で地域の方と一緒に来館者の対応にあたったことにさかのぼる。ここでの経験が、まちづくりアドバイザーとしての業務におおいに役立っている。
趣味は古い街道を歩くこと。地域の文化歴史を地域活性化にいかに役立てるかを提唱している。

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