成逸学区のまちづくり

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川田さんと牧本さん

今回の取材先は「成逸住民福祉協議会(以下「成逸住協」)」に属する団体、「成逸自主防災会」の牧本晴男会長と「成逸体育振興会」の川田雄司会長にお話しを伺いました。牧本さんには主に「成逸自主防災会」について、川田さんには成逸住協の取組「せいいつ方式」について伺いました。

~その1 防災の取組と防災まちづくり大賞について(牧本晴男さん)~

成逸自主防災会は地震や火災時などの災害が発生したときに地域の防災力向上を目的として昭和58年3月に設立された防災まちづくり組織です。取材していく中でお二方の地域に対する熱い思いが伝わってきました。以下、質問とその質問への返答をまとめています。

―自主防災会とはどのような組織
 京都市からの指導で、公的なものでなく各学区で防災についての指導ができる、いわば私的な団体を作ろうということで、自主防災会は各学区で立ち上げられたと牧本さんは話されていました。学区の住民で構成されており、消防署や消防分団と連携して活動しているそうです。

―成逸自主防災会での取組とは
 防災啓発、避難訓練の運営、火災報知器設置の啓発活動、「避難所運営マニュアル」作成、消火器の位置や避難時に困難が予測される高齢者の方や障がいのある方が記載されている「福祉防災マップ」作成(数年で内容を更新)、災害時に避難支援を求める人をリストアップしている「せいいつほっと安心カード」作成(3年ごとに内容を見直す)、防災知識に長けた有識者による講演会などが活動の一部分としてあるそうです。活動には大学教授などの指導が入っており専門的なものになっているそうです。 また、防災訓練にも大学教授などの指導が入っており、訓練をやったままにせず実用的なものとなるように工夫されているということでした。


防災心得は内容説明と共に配布

防災心得発行の経緯等

「避難所運営マニュアル」は災害時、避難所に区役所や消防の方がすぐに来られないというときに最初の2、3日は住民だけで動けるように作成されたもので、学区単位で採用したのは全国初の取組でありました。
他にも防災劇やスタンプラリーなどファミリー世帯を中心とする若い世代の居住者に楽しんでもらえる工夫をしていると、川田さんにお聞きしました。
こういった活動が評価され、成逸自主防災会は総務省から「第21回防災まちづくり大賞消防長官賞」を受賞されました。


大賞を受けた内容

―成逸自主防災会の活動に学生が参加することについて
  インタビューをしたお二方とも参加してほしいという意見がでました。牧本さんは学生とも地域の交流をしていきたいとして自主防災会でもどうすればいいか考えていかないといけない、他にも逆に若い世代の人は地域活動に対してどう思っているのかが気になるとも話されました。

―成逸自主防災会の目的とは
  牧本さんは災害を完全に防ぐことは不可能なので『減災』を心がけているそうで、町内会単位でのコミュニティづくりをすることや実用的な防災訓練を実施する、さらに自主防災会で住民の防災に対する意識をどのように変えていくかを考えることを目的にしているそうです。

―成逸自主防災会の課題とは
  避難訓練の参加者が高齢の方が多いため、若い世代の活動への参加率が課題でありそうです。役員の後継者問題もあり、新しく若い世代(30代、40代)にも参加してもらいたいと牧本さんはおっしゃっていました。

京都市主導で地域防災の指導を進めていくと、各学区等の細かい情報までは把握することは困難であるが、学区単位の自主防災会であれば身体的弱者や避難が困難な方の特定が可能になり、それが『減災』につながるように感じられました。
学区民代表の川田さんが話されていたのですが、「災害時に避難をしている最中で道に倒れている人が顔見知りか、そうじゃないかでその状況での行動は変わるかもしれない」という話を聞き、防災活動だけでなく学区の運動会や地域住民活動からコミュニティを形成し、町内会の人は全員顔を知っている状態を作ることが防災、さらには『減災』に非常に重要であるように思えました。

~その2 成逸住協のまちづくり活動「せいいつ方式」について(川田雄司さん)~

この『せいいつ方式』とは端的に言葉で表すと、成逸住民福祉協議会と成逸まちづくり推進委員会によって作成されたもので、学区のマンション居住者に町内会への加入してもらい、地域のコミュニティとマンションコミュニティが協働して適正な地域運営の推進を行うための方式です。(参考;『せいいつ方式』関係資料集 成逸住民福祉協議会 成逸まちづくり推進委員会 平成25年2月)


せいいつ方式は日々改訂されている

[成逸学区周辺のマンション立地状況から見て]

成逸学区には近年中規模のマンションが増えているという状況にあります。一軒家に住む方というのはおおかた町内会に加入しますが、マンションに住む方はなかなか入ってくれない現状があるそうです。これはまちづくり推進委員会としても大変問題であると考えているようです。
防災面、暮らしの面から見ても町内会のコミュニティを維持することは大事であると、川田さんはおっしゃっていました。町内会に加入してくれない人になんとかして入ってもらえるようにするのが第一の考えであったようです。

[せいいつ方式の工夫]

町内会に入ることのメリットとしては地域のイベントに参加できる、防災の際に地域で備蓄している食料を共有する(相互支援の輪に入る)ことができる、体育振興会のナイタースポーツを利用できる等があるそうです。デメリットとしては町内会の役員になるかもしれないという不安があるそうです。
こういったメリット、デメリットを加味してマンション居住者に町内会に加入してもらえるように「せいいつ方式」で導入されたのが、『準会員』として町内会に加入してもらうという考え方でした。
この『準会員』の特徴としては、町内会での役職につかなくてもよい、会費は通常の半額でよい、ナイタースポーツを体育館等で行うことができる、町内新聞が配布される、学区の運動場の利用やイベントに参加することができるというものでありました。実際にこの方式を取り入れたことで町内会の加入数が100軒以上増えたという事実があります。

[町内会に加入することで]

マンション居住者に少しでも多く町内会に加入してもらうことは既存地域のコミュニティとマンションのコミュニティの協働で適正な地域運営を図っていけます。川田さんはそれだけではなく住み良い町内にみんなでしていきましょうというのが『せいいつ方式』の基本であり、それがコミュニティ形成につながるとおっしゃっていました。町内会に入れば、顔見知りが増え、それは防災にもつながるともおっしゃっていました。

町内会加入で地域住民と顔見知りになることは防災面においても非常に役立つものであるように思います。「あそこのおじいちゃんは足が病気だから歩くことができない」など、これは一例でありますが、避難時にそういった個人の情報があればお互いに助け合うこともできて被害を減らすことにもつながるでしょう。
「せいいつ方式」により、新規の町内会の会員が100軒以上増えたというのは大変な増加率であるように思えました。会員になることで地域への関与が増え地域内のつながり意識がより確固たるものになるように思えます。準会員として、少しでも学区のことについて考える機会があればこの地域に対して何か思いを持つことができる可能性が増えるでしょう。そういった志を持つ人が増えることで地域の活性化につながるように感じられます。正会員が増えることは、単純に考えて会費の徴収額が増えるため地域が何か活動をするための資金が増えます。資金が増えれば地域としては活動の質を高めたり、より住み良い地域にすることができるように感じました。また、それだけでなく今の若い世代に地域の役職を引き継いでもらうことも正会員になって初めて可能なことになります。若者世代にもバトンをつないで地域を支える地盤を作っていくのが理想だと感じました。

レポーター

今井健太郎(いまい けんたろう)

私は現在京都府立大学に通っており、野田浩資ゼミ(社会調査ゼミ)でフィールドワークやアンケート調査を通して西陣地域の地域住民活動の研究を行っています。今回、インタビューを行って聞いた貴重なお話はこれからのこの地域にとても重要な考え方だと思いました。現在分析中のアンケート調査とこのインタビュー調査を組み合わせて、より良いコミュニティづくりには何が必要か、どういった工夫が必要になるのか、さらに若い世代が住民活動へ参加してもらうにはどうしたらよいのかを考え、地域の方々にフィードバックしていって少しでも地域に貢献できればと思います。

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