今回の取材先は上京消防署、「消防課第三部」担当課長補佐・消防司令の小林知之さん、同消防司令補の水口貫太郎さんにお話を伺いました。お二方には主に普段の上京消防署としての消防活動や、地域住民組織との連携、防災まちづくりでの課題、消防団についてのお話を伺いました。
まずは緊急時の災害出動、マンションのような一般住宅以外の対象物ごとに査察(消防設備、防火体制で不備がないかを見て回る)、一般住宅だと訪問防火指導・防火安全指導を一軒一軒回って行い、学校での防災教育、学区ごとの自主防災会と消防団への指導を主な活動として日々働いています。自主防災会や消防団のような住民で構成された組織と共に、地域に防火指導する連携活動も行っています。
「訓練が終わった後に住民の方に『ありがとう』と言われることがあります。その瞬間は訓練を主催する側としてもありがたいですし、地域住民の消防の意識の向上につながると感じます。」
訓練を惰性でやるだけではそんな言葉は出ないと思いますし、参加した方が訓練に意義を見出すことができ、意識が向上したからこそ「ありがとう」という言葉が出てくるのではないかと感じました。
消防車で区内を走っていると、子どもがよく手を振ってくれるそうです。乗車している隊員も「全力で」手を振りかえします。その理由は「小さいころからの防災意識向上につながるかもしれない。」ということでした。また、消防署では幼児期から高校生までを対象とした防災教育マニュアルがあるそうです。若いころから防災にふれることで、意識向上につながっていくと感じました。
消防団と連携し、消防署はプロとして地域住民組織へ指導を行います。しかし消防団は地域への愛護の気持ちで活動しているので、「地域に根差した消防団の方に地域の直接の消防を任せるのが効果的である。それがいろいろな相乗効果を生み、そのつながりが減災・防災につながっていく」、という説明に、「消防団と消防署の連携した活動が住民の防災意識向上につながる」という図式が浮かびました。
消防署は、上京防災計画では自主防災組織の育成機関であり、積極的に防災行事を開催しています。
消防隊の方々は普段から自主防災会とつながりを持っています。上京第1消防隊の水口さんは室町学区を担当され、実際に室町学区の自主防災会会長さんの家を訪ねて、自主防災会の育成に関する話を月に数回するようにしています。日頃から消防署として地域との調整、関係づくりは怠らずに進めています。また併せて室町消防分団への指導もしています。
消防署と深いかかわりを持つ消防団。上京区の消防団について、お話を伺いました。
上京区の消防団では、室町消防分団に学生ボランティアサークルが参加する事例があります。
室町学区に同志社大学があることもあり、同大学を中心に数名の学生が団員として活躍しています。「学生がいることで活性化にもつながっている。」とおっしゃっていました。消防団は全国的に定員割れが多い中で、室町消防団は学生が入っているので、現在は定員割れをしておりません。若い力が消防団に入るということは大変ありがたいと小林さんはおっしゃっていました。
京都市では全国的な消防団の高齢化、定員割れの現状を受け、若い人に入団してもらえるよう、消防団の充実強化実行チームを設置し、様々な検討をし、魅力ある消防団づくりを目指し、消防団の広報や各種のイベントを行っている。そういった活動がなければなかなか入団の機会が持てないと小林さんから伺いました。
水口さんには室町学区の担当ということもあり、室町に関する防災上の課題を伺いました。
室町学区は大変世帯数が多く、また高齢者の数も多いので、この巨大な学区を自主防災会の会長一人でまかなうのは大変だとおっしゃっていました。消防署としても自主防災会への指導は行うが、全ての指導をするわけではないので会長は苦労されている感覚があると回答をいただきました。
高齢化はどの地域でもいえる課題です。これから寒い時期になると火を扱う機会が増えるようになるので、防災訓練を通じて継続的に火災予防を訴えることが大切になる、という小林さんの意見もいただきました。
[避難訓練]
上京消防署さんからのご厚意で室町学区内マンションで実施された避難訓練を見学させていただきました。
<内容>
午前10時に火災発生によりマンションの非常ベルが鳴り、マンションの玄関前に住民が避難するという想定での避難訓練。住民が集合した後にマンション内のどこで火が発生しているかが把握できる管理室内の受信盤についての説明を行い、火災発生時には、まず最初にここを見て状況確認を行うということを住民に周知させていました。
訓練後、署員2名がマンション住民に屋内消火栓と消火器の取扱いについての説明をされていました。その後、避難訓練参加者全員が消火器実演を行い、取扱い方を住民の皆様は実践的に学んでおられました。参加者からは消火器が15秒間しか使えないという署員さんの話に驚きの声があがっていました。普段の生活では意識できない緊急時の体制をマンション住民で確認できる避難訓練の内容となっていました。
<今回のインタビューを通じて>
今回インタビューをする前に持っていた消防署の仕事のイメージは、大部分が緊急時で消火活動を行うというものでしたが、話を聞くうちにそれが大きな間違いであったことに気づかされました。
消防署の方々は日々たくさんの業務をこなされながら、地域の一軒一軒を訪問し防火の啓発活動を行っておられます。この活動は京都の住民に寄り添いながら住民の防災への意識向上に大きな影響を及ぼすものであると、話を聞く中で感じました。お二方が防災への思いを口にするとき、「地域コミュニティの希薄化」という言葉を多く使われていました。住民同士のお付き合いを課題として挙げ、実際にその課題解決のためにも仕事に取り組まれているように思いました。
今回取材させていただいた小林さん、水口さんのお二方とも語気から非常に真剣に懸命に業務に励まれる強い思いを感じました。この度はお忙しい中、貴重なお話をどうもありがとうございました!!
今井健太郎(いまい けんたろう)
私は現在京都府立大学に通っており、田所祐史ゼミでフィールドワーク、聞き取り調査を通して成逸学区の自主防災会について学んでいます。今回の消防署のインタビューで消防署の地域の防災・防火・救急活動に熱を注いでいることを感じました。日々の業務の中で消防団、自主防災会の育成推進をプロと自覚して進めているという言葉には感動いたしました。地域の防災に関連する住民組織の活動に上京消防署による指導や連携活動があることは京都市の防災まちづくりを進めるうえで非常に重要なエッセンスであるように感じました。