大宮鞍馬口を上がってすぐの路地奥にある一軒家の「はうす結(ゆい)」は、天井が高く、明るく開放的な空間が広がっています。土間の真ん中にキッチンがあり、各部屋を行き来する廊下は、土間の周りに座って語らうことができる縁側のような場にもなっていました。
今回、「はうす結」を運営する宮本真弓さんと上西幹子さんにお話を伺いました。
2020年秋、上西さんは、ある居場所づくりの主催者と連絡を取り、興味を持ちながらもなかなか足を運べずにいたその場を訪れた時に、宮本さんと知り合いました。「主催者の方から『同じ思いを持っている人が来ますよ』と声をかけてもらったんです」と宮本さん。上西さんと宮本さんは、話し始めるとすぐに意気投合し、翌月には場所を借りて居場所づくりを始めました。
上西さんが「私は、石橋を叩いて渡るような性格で、考えて、考えて、結局やめようかな…となかなか行動に移せないのですが、宮本さんは石橋を軽々と渡っていきます。そのおかげで活動が始まりました」と言うと、「まずやってみようと動いてしまうので、落ち着きのある上西さんに支えられています」と宮本さんが言い、お二人の会話のやり取りから、互いの持ち味をいかして運営されている様子が伺えます。
宮本さんと上西さんのお二人には、障がいを持つお子さんがいます。
子育てに対する不安も喜びも経験する中で「障がいを持つ子どもを育てる親がふらりと来て、少しずつ溜まる日々のストレスや、やり場のない気持ちを自由に語って、前向きになれる場があったらいいな」と居場所づくりの活動を始めました。
何度か開催し、「月に一度では、気持ちが溜まりすぎるかもしれない」「障がいのある子どもを育てる家庭に限定せず、誰もが集まれる場を作りたい」と気づき、2021年2月、場所を若宮竪町に移して「みんな違ってみんないい」をコンセプトに掲げ、楽しいことをみんなで作り、互いに応援し合える場となる「はうす結」を立ち上げました。
「はうす結」では、週に2回お茶を片手におしゃべりできる開放日を設けるほか、月に1回「ごちゃまぜイベント」を開いています。内容は、小物づくりや音楽、美術、マッサージなど様々で、訪れた方々の得意なことを共有する形でワークショップを開くこともあるそうです。
継続して活動するうちに「障がいがある子も、ない子も一緒に過ごし、『障がい』と『健常』の境がなくなっていくという、望んでいた場が形になってきました。親たちも、障がいがあろうとなかろうと、子育ての大変さや喜びは似ていることに気づき、悩んでいるのは自分だけではないと気持ちが軽くなるようです」と上西さんは語ります。
一方、「ごちゃまぜ」の場であることを周知するのはなかなか苦労するのだそうです。「考えた末、活動を紹介するチラシには『障がいの有無に関わらず』という言葉を入れました。『障がい』という文字を入れると健常者には届きにくくなり、反対に、何も明記しないと障がい者に届きにくくなってしまうようで、どのように伝えればよいのか迷います」とお二人は話します。
年齢、性別、国籍などに関わりなく、学生、結婚している人、結婚していない人、ひとり親家庭、病気を患っている人、健康な人、学校に行っている子ども、不登校の子どもなど、まちに暮らす色々な人が集まれる「ごちゃまぜ」の場を作っていきたいとの思いを持って、周囲に呼びかけながら活動されています。
「いつかは、健常者と障がい者がともに働く場ができたらいいな」と語る上西さんと宮本さん。「はうす結」のイベントを通じて、子どもたちは色々な経験をします。そこから自分の好きなことを見つけ、趣味を広げる子どもの姿を見て、年齢に関係なく、色々な才能や好きなことを伸ばせる機会を作っていきたいと思ったのだそうです。
障がいを持つ子どもにとって、高校卒業後の選択肢はあまり多くありません。大学に進学する人の数は限られ、企業に就職するか、福祉作業所で働くことが多く、放課後デイもなくなるため、家と職場の往復になり、趣味で何かをする場、学び続ける場も減ってしまいます。
仕事を通じて社会に貢献する場や、好きなことや得意なことをいかして健常者と障がい者が共に働く場を作ることで、「障がいを持つ子どもが『生まれてきて良かった』と思い、親は『産んで良かった』と思えるように、一人ひとりに生きる意味があることを感じながら過ごせたら」と、「はうす結」は未来を見据えて「ごちゃまぜ」の場づくりを進めています。
はうす結
住所:京都市上京区若宮竪町97-11
Email: houseyui.202102@gmail.com
亀村佳都
まちづくりアドバイザー
「探していた場所がなければ、自分たちで作ってみよう」と前向きに活動される宮本さんと上西さんから元気をいただきました。私も含めてみんなが悩みを吐露したい時に、話す場があることはありがたく、悩みを話しているはずが、いつの間にか笑い話に変わっているかもしれないと思わず期待してしまうような、温かい場でした。