「西陣織」その言葉は、伝統産業に興味がない方でも、一度は聞いたことがあるのではないでしょうか?西陣織の歴史は深く、安土・桃山時代には西陣織の基礎が築かれていたともいわれています。また、江戸時代に入ってからは、幕府の保護の元、西陣の黄金時代を迎えたという過去もあります。
「西陣織」の西陣という名の由来は、応仁の乱で各地に離散していた織物職人たちが、織物作りを再開した場所こそが西陣であったからです。そこで作られた織物ということで、「西陣織」と呼ばれるようになったといわれています。
このような歴史のある西陣織ですが、近年洋風な装いをすることが多いこともあり、その出荷数・職人数ともに減少傾向にあります。ですが、現在も西陣織の製造をしながら、若い世代にも西陣織の良さを伝えてくださる職人さんもいらっしゃいます。
今回は、「中村織物店」の4代目店主、中村亨さんにお話を伺いました。中村さんは西陣織の若手職人の方々が集まる「西陣連合青年会」に所属しており、若手ならではの知恵とアイデアで、西陣織をより多くの人に親しんでもらえるよう、活動されています。
近くの小学校で一年を通し授業の時間をもらい、児童とともに蚕から育てて糸を取ったり、若者も手に取りやすい価格の商品を作ったり、オリジナルキャラクターである「ニシジンくん」を活用したLINEスタンプ制作などにも取り組まれています。
普段和服などを着る機会の少ない若者にも、様々な方法で西陣織に興味を持ってもらおうと青年会の仲間と話し合いながら、工夫しているそうです。
西陣青年連合会の新たな挑戦である「西陣タータン」についてお話を聞くことが出来ました。タータンチェックはスコットランドの伝統文様であると同時に、日本では「格子柄」と呼ばれ、同じく伝統文様として愛されてきました。
中村さんによれば、西陣織にタータンチェックを取り入れるきっかけは、新型コロナウイルス感染症の流行とのこと。それは、西陣織産業にも打撃を与えたそうです。そんな中、西陣織産業を盛り上げていく為に、同業者の集まりである西陣連合青年会が注目し、
挑戦を試みたのが「西陣タータン」であると伺いました。
なぜ、他にもたくさんの模様があるにもかかわらず、タータンチェックに目を付けられたのでしょうか。お話によれば、「神戸タータン」や某百貨店の紙袋など、日本の織物産地でも人気で使用されており、京都の町並みを表現した「碁盤の目」、京町家の格子が連想されることなどの理由によって選ばれたとのことです。
しかし、西陣タータンを実現するにあたって困難もあったようで、今までに挑戦したことのない模様を西陣織に取り入れることになるため、同じ比率で左右対称の模様にすることや、織物としての密度を合わせる、
それを従来の機械で実現することが難しく、何度も調整されたそうです。
色の配色においては、西陣にゆかりのある応仁の乱の勃発年である1467年にちなんで黄1:紫4:緑6:水7とこだわりぬいてデザインを決めたとのことです。
西陣タータンの魅力は、なんといってもその鮮やかな色彩と、親しみやすいタータンチェックです。これは西陣織に携わる様々な職人技の結集であり、完成まで多くの工程をかけて生み出されるため、品質の高い絹織物をタータンチェックの柄で作ることで日本の伝統と異国の伝統の融合というブランディングを確立することに成功しています。
西陣織の製作には多くの工程が必要であり、それ故に高品質の絹織物は高価なものとして手の届きづらい値段になってしまいます。しかし、西陣タータンのネクタイは税込7,700円、名刺入れは税込3,300円で販売されており、たいへんお手頃な価格です。この価格設定には、西陣織本来の高い品質は守りつつもタータンチェックという新たな魅力を生み出し、若い世代にも西陣織に手を伸ばして欲しいという中村さんたちの想いが込められています。西陣織には、すでに神社仏閣にて広く用いられているため、新たに販路を拡大する必要に強く迫られているわけではありません。それでも、たくさんの時間やコストをかけて西陣タータンを製作したのは、ひとえに西陣織を多くの人に知ってもらいたいという思いがあるからだと中村さんは話してくださいました。
西陣タータンは、西陣織にあまり触れていない若い世代等に西陣織を知ってもらいたいという思いから作られたものです。スコットランドでは、タータンチェックは日本でいう家紋のような意味を持っています。西陣タータンにも同様に、今後西陣織を広めていくうえで、家紋のような存在となることを期待しているそうです。
西陣連合青年会の山口行子さんは、「街中で西陣タータンの柄を見たときに、誰もが西陣織だと分かるようなものになると嬉しい」と笑顔で話されていました。それと同時に印象に残ったのは「西陣タータンの柄だけが広まることは意味がない」というお話です。中村さんたちは、西陣タータンをきっかけに西陣織をはじめとした絹織物の良さを知ってもらいたいと考えておられます。スコットランドのタータンチェックは本来毛織物ですが、
西陣タータンは絹織物であることも、こだわりの一つです。西陣タータンの柄を広めるならば、多様なグッズの展開やお店の紙袋として採用するのが効率的でしょう。しかし、中村さんたちは西陣織のブランドや伝統との兼ね合いを重視して、
このような方針をとられているのです。
中村さんは、西陣タータンの他にも西陣織に欠かせない「杼」という道具を作る職人さんの不足を懸念し、3Dプリンターを使って杼を制作されました。また、同業の仲間の方も、西陣織をより広く知ってもらうために、女子駅伝の「たすき」の制作を行っておられます。地域学習に来る子どもたちへ、西陣織の魅力を伝えるために預かられている「たすき」を今回、特別に見せていただきました。
業界では若手である中村さんですが、ブランドや伝統を尊重しつつも業界の未来のため革新を進め、西陣織の普及に大きく貢献されています。
西陣連合青年会は、伝統的な西陣織や西陣タータンの製作を行い、西陣織を多くの人に知ってもらうための活動を続けています。
西陣タータンはその第一歩であると、中村さんは語られていました。
立命館大学法学部2回生 渡部優希
今回、中村さんにお話しをお伺いしてみて、名前を知っているだけであった西陣織というものが身近に感じるようになりました。また、若者にも手に取りやすいようにと工夫をしてくださっていることで、イメージよりも手頃な価格の商品があることがわかり、もっと西陣織というものが若者にも浸透することでこれからも西陣織の歴史が続いていくといいと思いました。さらに、伝統を守っていくという事と、新たな改革のバランスがすごいと感じたのでもっと今の西陣織について知りたいと感じました。
立命館大学法学部3回生 松本康幹
今回の中村さんへの取材を通して、日本の伝統的な工芸品である西陣織について多くのことを学ぶことができました。西陣織についても学んだこともそうですが、西陣織を作っている方に取材させていただいたことで中村さん達、職人の方々の思いを直接聞けたことは得難い経験だったと思います。
立命館大学法学部2回生 中田結菜
今回、お話を聞いて、西陣タータンに挑戦するに至った経緯や、なぜタータンチェックという柄に決めたのか、挑戦するにあたっての苦労など、普段聞けない貴重なお話を、中村さん本人から直接お話を伺うことが出来、とても貴重な体験であると感じました。困難を乗り越えて実現した「西陣タータン」の魅力を再発見できたと実感しました。
立命館大学法学部2回生 西形真次郎
西陣織の未来について真剣に語る中村さん達の言葉からは、西陣織をより多くの人に手に取ってもらいたいという気持ちがひしひしと伝わって来ました。若年層でも手に入れやすい西陣タータンはその気持ちの表れだと感じるとともに、私もぜひ手にとりたいと思いました。まるで秘密基地のような仕事場や、実際に西陣織を織っている様子を見せていただいたことも、たいへん貴重な体験となりました。