2018年10月31日に、西陣爪掻本(つめかきほん)綴織の職人である、森紗恵子さんのもとを訪れ、お話を伺いました。
西陣織の工程は、大きく「企画・製紋」、「原料準備」、「機準備」、「製織」、「仕上げ」のブロックに分けることができます(*)。綴織は、製織工程の一つで、「綴機(つづればた)」という人の手足のみで操作する織機を使用し、「爪掻(つめがき)」という伝統的な技法で文様を織り上げます。その方法は、強く張った経糸(たていと)に杼(ひ)という道具を使って緯糸(よこいと)を通し、作り上げていく織物です。また、模様などを作る際は、自らの爪をやすりで削りギザギザを作って、それを使い織っていきます。そして、緯糸で経糸を包み込むように織るため、経糸が全く見えず、立体的で表裏ともに同じ模様になるのが特徴です。
* 西陣織工業組合http://www.nishijin.or.jp/site/ori/koutei.html
森さんが綴織の職人となったのは、大学卒業後デザインの仕事に就いた後のことでした。自分で何かを作るような仕事がしたいと考え、ハローワークへ向かったといいます。そこで、未経験者OKという綴織職人の募集を見つけ、見学に向かい、おもしろそうと感じた森さんは職人となることを決めました。大学ではモノづくりに関係するような専攻ではなかったそうですが、小さい頃からモノづくりや染織に興味があり、布の模様をデザインしたり、関連する書籍を読んだりしていたといいます。
職人として独立し、その後ご結婚された森さんは現在、西陣の町家に引っ越し、そこで職住一致の生活を送っています。もともと祖母の家が古い家だったこともあり、その不便さを知っているので少し悩まれたようですが、古い家財道具も残ったままのこの町家を見て一目で気に入り、住むことを決めたそうです。森さんが暮らす町家は、金襴という織物の職人さんが以前は暮らしており、その機械を使うための工夫が凝らされています。今も残る機械を設置するための非常に高い天井や、高所での機械整備用と思われるバルコニーのようなものから、前の住人の生活が感じられます。
森さんは「来てくれる人がワクワクしてくれること!」これが町家に住むメリットの1つと言います。ほかにも、「自分の好きな空間に住めること、そして自分たちがこの町家の改修に関わったことで、この家のどこが弱いのか自分で知っている。」ということもメリットの1つしてあげてくれました。築100年を超すこの町家は、暮らしながら自分たちでメンテナンスしていく必要があるといいます。
綴織の職人となって感じているこの仕事の魅力は、「1つ1つの仕事の区切りがはっきりとしていることだ」と森さんは言います。「帯を1本織る」などと目標が明確で、その仕事をやり遂げたときは達成感に満ちるそうです。「次々と課題が出てきて、心が折れそうになったこともある。」といいますが、「やはり完成した時の達成感が、この仕事を続けられている理由の1つであり、モノづくりの魅力だ。」といいます。
職人は家業を継ぐ人ばかりかと思っていたら、ハローワークの求人募集が始まりで綴織職人となり、西陣にある町家で職住一致の生活を送っている森さんとお会いして、「敷居が高い、自分には縁遠い」と感じていた綴織や西陣織、また伝統産業全体と、ちょっと距離が縮まった気がしました。綴織職人や、町家の住人としてではない森さんご自身の人生などについてのお話も私には驚きの連続でした。好きを大事にしていらっしゃる森さんは、もっといろいろなお話しを聞きたくなってしまう、素敵が詰まった方です。
綴織や町家は敷居が高い、自分には縁遠いなんて思われていた方!この記事を読んで少しでも興味を持っていただければ幸いです。
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京都府立大学公共政策学部福祉社会学科3回生
村上 真央
京都の大学で福祉を中心に学んでいます。大阪の家と大学の往復ばかりで、せっかく京都の大学に通っているのに、京都について知らないことばかりです。カミングのレポーターとして取材させていただくことで、もっと京都を知りたいと思います。 和服に興味があるのですが、身長が高くてサイズが合わず悔しい思いをしています。先日レンタル着物のお店で、かわいい柄の着物を選んだら、トールサイズの中から選びなおすように言われました。