山田松香木店(京都本店)は、京都御所西にある歴史と風情漂う香りのお店です。
山田松香木店の三浦さんと嶋田さんに、香りや地域に向けた活動の展開についてお話を伺いました。
山田松香木店は、江戸時代に漢方薬の原料である薬種業をはじめ、その後、香木や芳香性薬種(香原料)を中心とする香木業に移行し、様々な香り製品を扱うようになりました。京都のお香屋さんも元々は薬種業から創業しているようです。
現在は、香りに関連する製品の販売に加え、香りに親しんでほしいという想いから、店舗では香りの体験が開催されています。「聞香コース」と「調香コース」があり、今回私は「調香コース」の匂袋作り体験をさせていただきました。
香道は、茶道や華道とともに「三道」と称される日本の伝統文化で、香木の香りを楽しむものだそうです。
山田松香木店にある薬箪笥をモチーフにした棚には、それぞれの引き出しに香木の名前や産地などが書かれていました。ひとくちに香木といっても多くの種類に分けられることがわかります。木所(六国)やグレード、形状などによって分けられているそうで、木所によって香りが異なるということが不思議で面白いと思いました。
お香を楽しむ方法は、他にもいくつかあります。
今回の取材では、目の前で空薫をしていただいたことが私の印象に残りました。すっと立ち上った煙が香りとともに広がっていく様子は、思わず感嘆の声をあげてしまうほど、その部屋の空気感をがらりと変えました。近年人気のルームフレグランスとはまた違う趣を感じました。
聞香では香りを「聞く」と表現されますが、「聞く」という言葉には、「理解する」という意味があるそうです。香木が木として成長し、香木として使われるようになるまでには何百年という歳月がかかるといいます。香りを聞いて、その歴史や背景を想像し理解する、奥深い道であることがわかりました。
最後に、匂袋作りを体験させていただきました。
お部屋の壁には香道具や香木で作られた像などが整然と並んでいて、その特別な空間で、まずは香原料についての説明をいただきました。香原料には植物性のものと動物性のものがあり、それぞれから香りの個性を感じました。動物性の香原料があるということも私には驚きでしたが、植物性といっても花ではなく、葉や根茎などあまり香りのイメージのない器官が素敵な香りをもっているということが意外でした。
匂袋には、白檀、丁字、桂皮、大茴香など数種類の植物性香原料を使用しました。白檀から順に香原料を足していくと、少しずつ香りの変化が感じられました。それぞれの個性的な香りが、ひとつに合わさっていく様子が面白かったです。
香原料の配合を変えていくことで、自分好みのオリジナルな香りを作ることができます。自分の好みや性格が香りに表れ、またその日の気分によっても違う香りが出来上がるのかなと思うと、わくわくしました。
私は、ベースとなる状態から桂皮と藿香を加えて仕上げました。甘くさわやかな香りに変身して、お気に入りの匂袋になりました。大切につかっていきたいです。
今回は貴重な経験をさせていただき、私のような初心者でも香りの文化に親しむことのできる素敵な時間になりました。お話によると、匂袋作り体験に訪れる方の中には、お子さんや学生さんもいらっしゃるそうです。一人集中して香りを楽しむことも素敵ですが、家族や友達と一緒に体験するのもまた、より一層盛り上がって楽しそうだなと思いました。
香りの世界は、格式高く、自分から遠くはなれたところにあるような気がしていました。それでも、取材や匂袋作り体験を通して香りの世界に近づいてみると、あっという間にその歴史や特有の雰囲気に魅了されてしまいました。少し覗いて一歩足を踏み入れてみると、案外伝統文化は親しみやすいものに感じられるのかもしれません。
御香司 山田松香木店
〒602-8014 京都府京都市上京区勘解由小路町164
URL https://www.yamadamatsu.co.jp/
★上京区役所で開催された「京の五節句と年中行事―上巳の節句展」でもご協力いただきました。
(2022年3月開催)
レポート記事 https://www.kamigyo.net/public_html/event_report/report/20220331/
小川 結衣花(左)
京都に暮らす大学生です。
初めて知る香りの種類や歴史のことが私にはなかなか難しく、取材を受けていただいたお二人には質問ばかりしてしまいました。それでもひとつひとつに丁寧にお答えいただき、すっかり香りの世界に興味が湧いてきました。作らせていただいた匂袋はさっそく枕元に飾って、毎晩その香りに癒されています。