京都には路地がたくさんありますが、路地の始まりは、平安時代にまで遡ります。
京都のまちは平安建都の際、中国・唐時代の長安の都市制度にならって「条坊制」を採用し、碁盤の目状に道をはり巡らしてできました。
通りが東西南北に走り、その通り沿いにお店や住居が並んでいます。通りに囲まれた区画の中心部に入るために作られた道が「路地」と呼ばれ、次第にこの路地にも、住居や店が建つようになり、人々の生活の場所として定着していきました。
上京区にも数多くの「路地」が存在し、今でも昔ながらの京都らしいまち並みを残しています。
三上家の路地については2023年にカミングでも取材させていただきました。
参考)2023/2/16カミングレポート「路地のある町家における、健やかで居心地の良い暮らし」
https://www.kamigyo.net/public_html/event_report/report/20230216/
正親学区では、平成30年以降、学区内の「路地」に地域の住民や正親小学校の小学生が考案した名前が付けられ、地域を挙げて「路地」を守っていこうという機運が高まっています。防災の観点からも注目されています。
ちなみに、通り(大路・小路)をつなぐ細い道を「図子(辻子)」と呼び、行き止まりになっている道を「路地」と呼んでいます。しかし、図子も含めて路地と総称するため、明確な区別はありません。
さらに、京都では、路地を「ろおじ」と呼んでいます。
さて、一条通から浄福寺通を下がって(南に行って)すぐの所に「西陣ろおじ」があります。
通りに面して、アトリエ、カフェ&アクセサリーショップ naeclose(ネイクローズ)があり、細くて長い路地を入ると左奥には、二軒のマンスリー宿泊施設が、奥には野球グローブ製作店scratch(スクラッチ)、カフェなど4軒の店舗が並びます。
ネイクローズを運営するデザイナー西紗苗さんにお話を伺いました。
店内にはハンドメイド作品とパーツ素材が美しく並びます。
ワークショップを開催している喫茶スペース、さらにキッズスペースもあります。
2階はアトリエになっており、京町家の懐の深さを感じます。
そして、路地を通り抜けても、ネイクローズ店内からも、「西陣ろおじ」の中に進むことができます。
2019年にスタートした西陣ろおじ。松竹㈱が寺田倉庫㈱とともに、江戸時代の西陣をコンセプトにプロデュースしたとのこと。現在は京都の不動産会社フラットエージェンシーが管理し、西さんも西陣ろおじの管理を、一部お手伝いされています。
西陣ろおじにある店舗は、週末だけなど営業日や形態はさまざま。
ゆったりとした時間が流れています。各店舗は住居としてではなく、ビジネスとして経営されていますが、路地ならではのご近所づきあいがある、あたたかい路地です。
例えば、西陣ろおじ内の店舗で購入した食べ物を、ネイクローズのワークショップ中に食べたり、冷蔵庫がない店舗の方が差し入れでいただいたプリンを冷やしてあげたり…。何気ない日常ですが、ビジネスライクでは生まれにくいつながりだと感じます。
西さん自身は、ここにきて5年。時間が丁寧にゆっくり流れていると感じるそうです。
穏やかに過ごしていると、心地よいからか路地内の木には最近鳥の巣ができ、ひなが成長しているそう。
西陣ろおじで5年、店舗を構えてからは16周年を迎えた西さん。
「これまでは、店舗や自身のPRのために努力を重ねてきました。先のことは考える余裕がなかったように思います。これから先は、この環境の中で様々な経験や交流を重ねていきたいと考えています。人と会う数は圧倒的に減りましたが、子どももできて、この場所ならではの新たなつながりが生まれています。」
と今後の展望を聞かせてくれました。
路地にはそれぞれの暮らしや営みがあり、不思議な魅力があります。
一方で、西陣ろおじのように路地を管理活用する人がいることはこれからの京都の暮らしにとって、重要なことだと感じます。
また、路地を活用しようと決断した大家さん、運用される不動産会社さんがいることも忘れてはなりません。
参考に、改装前のお写真をフラットエージェンシー様にご提供いただきました。
資料によると、大きな敷地だったこともあり新築で賃貸マンションを計画中だったそうですが、所有者の方がマンション以外の利活用について提案してほしい、建物を残したい、というご意向だったそうです。
そこで、「建物は老朽化しているが、非常に貴重な空間である。」と、マンション建築ではなく既存の建物を再生することになったとのことです。
さらに、この地域は、細街路・密集市街地防災地域に指定されていたため、全棟を簡易宿所にするのではなく、店舗・アトリエを設け、地域のコミュニティが生まれる空間へとリノベーションされました。
古くから続く暮らしの文化をどのように現代に生かすか、そしてそれをどのような形で続けていくかは、いろんな方の強い使命感が交わってつながっていくのだと感じました。
岡元麻有
路地には隠れ家的な専門店や飲食店があるなど、ディープな魅力を感じます。
路地に届くなんとも言えない光の差し込みも心地よくて好きです。
一方、生活空間でもあり、路地に立ち入ることは躊躇せずにはいられません。
観光目的の立ち入りは、確認してからの方がよいでしょう。
防災の視点からも、路地の活性はまち全体が明るくなるような印象を受けました。
安心できる場所、人がまちの中にいることが大事だと感じます。