「むぎのゆめ」は、福祉に関わる方、障がいのある方の暮らしがより豊かに、便利になることを願って立ち上げた、小児用補装具・福祉機器の総合レビューサイトです。
上京区で小児専門の補装具(義手・義足とは違い、低下した身体の機能を補うために装着するもの)を作る(株)ゆめ工房が、2024年7月にオープンさせました。
㈱ゆめ工房代表の益川恒平(ますかわこうへい)さん、むぎのゆめ運営担当の宮川三千代(みやがわみちよ)さん、向田真淑(むこだまさとし)さん、藤井紗里佳(ふじいさりか)さんにインタビューしました。
むぎのゆめのスタッフの皆さんによると、福祉の世界はとても閉ざされた世界だといいます。
私たちの「もしも」は突然やってきます。子どもが障がいを持って生まれてくるかもしれません。事故や病気でカラダが不自由になることもあるかもしれません。
では、障がいのある子どもが生まれた時、どのような手続きや検査が必要で、どんなものを準備しなければならないでしょうか。どこの窓口に行き、誰に聞いたら教えてくれるのでしょうか。
必要な情報を整理する作業は驚くほどアナログで、体力的にも精神的にも大きな負担があります。せめて、これから始まる生活に寄り添う'モノ'を集めたサイトを作りたい、少しでもその負担を減らしたい…そのような思いで「むぎのゆめ」を立ち上げました。
むぎのゆめの名前は、支援を必要とする子どものための情報サイト「COMUGICO」から由来しています。益川代表が、一般社団法人COMUGICOを運営し、社会的養護が必要な子どもの支援を行っているご夫妻の想いに感銘を受け、‘むぎ’の名と、ゆめ工房の‘ゆめ’がひとつになった名前になりました。ゆめ工房のロゴデザインを担当する山本美知(やまもとみち)さん(ヤマモトデザイン)が、むぎのゆめのロゴデザインも作成され、ますます親しみと一体感が生まれました。
インターネットでの検索は容易で、情報があふれている社会です。しかしながら、小児用補装具・福祉機器を集めた情報サイトは、「え?ないの?」と驚かれるほど存在しないと聞きました。
そのため、障がいのある子どもとその家族が最適な補装具や日常生活用品・福祉用具を見つけるには、各メーカーや店舗への問合せを個々に行わなければならず、情報収集や購入には多くの時間と労力が必要です。
むぎのゆめが目指すのは、メーカーや商品アイテムの垣根を越えた情報掲載とユーザーの口コミを通じて手軽な比較検索を可能にすることです。子どもたちに寄り添うモノがあることを広め、選択肢があるということを知ってもらいます。
そして、作り手の想い、使い手の感じたことを口コミ情報として伝えます。
サイトユーザーは、当事者のみならず、医師やリハビリスタッフ、医療福祉施設のスタッフ・福祉関係者、行政機関、医療・福祉系の教育機関・学生など多方面を想定しており、双方に有益な情報発信がなされる場として、商品開発や機能の改善につなげていく、まさに循環した取組として発展していくのが特徴です。
そこには、当事者家族という立場でもある運営スタッフの、熱い想いが込められています。
むぎのゆめサイトの立ち上げまでの準備期間はわずか3,4か月でした。益川代表と運営スタッフとの出会いもあり、駆け足で進んでいきました。
取材時は2025年1月。サイト立ち上げから半年が経過した今、率直な感想、展望を伺いました。
向田さん「絶対数が多い世界ではないとはいえ、掲載数も口コミ数も少ないのが現状です。情報を武器に、だれかの声がだれかの暮らしを支えるような心に響くサイトにしていきたいです。健常者も障がいを持つ人もみんなが仲良くすることで地域が良くなると思います。」
宮川さん「自分たちで作ったサイトですが、当事者の一人として期待してサイトを見た時に、自分が使ってみて良いと感じたモノが掲載できていない、というのが現状です。さまざまな取組を通して信頼度と認知度を上げ、公共性の高いサイトであることを行政等にも訴えていきたいです。」
藤井さん「むぎのゆめに集まる情報によって、この地域にとどまらず全国の当事者のお子さんの暮らしを支える存在になっていきたいです。」
益川さん「障がいのある子どもが最も弱者であると感じています。障がいのある人が過ごしやすいということが、誰もが暮らしやすいまちだと思います。行政にはできないことを企業としてやっていく必要があると感じています。ソーシャルビジネスのモデルケースとして、必要な利益は得て、誰かのため、みんなのために循環するお金になると良いと考えています。モノづくりから情報が生まれ、まちづくりにつながる、こんなにインクルーシブ(包み込むよう)なことはないと思います。」
現実に直面した当事者でもあり、運営スタッフでもある皆さんの優しい想いには、強く美しく、未来を担う子どもたちに選択するチャンスをもってもらいたい、あきらめることはないという夢が詰まっていました。
WEBサイトとして、マーケティングの仕組みや運営面の課題はあるかもしれませんが、むぎのゆめを通じて、障がいのある人の暮らしが、より豊かで便利になり、小さなストレスが軽減され、まち全体に共感を生んでいくことでしょう。
岡元麻有
以前ゆめ工房さんの取材時に、「脳性麻痺やダウン症、発達障がい等は、医学書上その特性を一括りにされることが多い。しかし、同じ障がいでもこの子はこれをもっと出来る等、個性の違いが大きい。保護者のみなさんがどう考えどう判断しどう行動するかによって、子どもたちの未来は変わる。」という益川代表の言葉が印象的でしたが、「選択肢はある」という意味で、未来を変えるサイトになるのではという期待が膨らみます。